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心理支援

症状が悪化する人と安定する人の違いとは?「ストレス-脆弱性モデル」から考える

難病・慢性疾患を抱えていると、「ストレスがあると症状が悪化する気がする」と感じる人は少なくありません。この記事で先にお伝えしたい結論は一つです。その感覚は、単なる思い込みとして片づける必要はないということです。心理学には「ストレス-脆弱性モデル」という考え方があり、その人がもともと持っている特性と、環境から受けるストレスが組み合わさることで、症状の出方が変わるとされます。だから「なんで自分ばかり」は、意志の弱さや努力不足の証明ではありません。以下では、この枠組みの概要と、日常生活で取り入れやすい工夫を、断定しすぎない範囲で整理します。

「ストレス-脆弱性モデル」とは(弱さではなく個人差)

ストレス-脆弱性モデル(diathesis-stress model)は、精神医学・心理学の領域で発展してきた考え方です。ジョセフ・ズビンとボニー・スプリングは、もともと統合失調症の理解として、その人が持つ脆弱性(素因)と環境ストレスの相互作用に着目しました(出典:Zubin, J., & Spring, B. (1977). "Vulnerability: A new view of schizophrenia." Journal of Abnormal Psychology, 86(2), 103–126.)。本稿ではこの原論文の疾患そのものを扱うのではなく、「特性とストレスの組み合わせで、不調の現れ方が変わる」という枠組みを、難病・慢性疾患の症状変動に当てはめて理解されることがある、という紹介にとどめます。

ここで言う「特性」とは、弱さや欠点ではありません。生まれつきの体質や感受性のような、人によって異なる個人差として理解されています。同じ量のストレスを受けても症状の出方に差が出るのは、この個人差によるところが大きいと考えられています。同じストレスを受けても平気な人もいれば、そうでない人もいる。それは「強い・弱い」という優劣ではなく、そのときの組み合わせの結果です。この視点に立つと、「なぜ自分だけ」への答えは「あなたが弱いから」ではなく、「特性とその時のストレスの組み合わせがそうだったから」になります。責める必要のない、中立的な見取り図です。

「なんで自分ばかり」と感じてしまう背景

症状が変動しやすい人は、「同じ職場・同じ生活リズムなのに、周囲は大丈夫そうで自分だけ調子を崩す」と感じることがあります。これは先述の個人差によるものであり、本人の努力不足を意味するものではありません。

ただし、この感覚は孤独感や自己否定につながりやすく、それがさらにストレスを増やすことがあります。筆者は公的職業紹介機関で持病・障害のある方の就職支援を担当するなかで、「自分だけが弱いのではないか」と口にされる方に、何度も出会ってきました。現場で感じる一般論として、比較の前提が違うのに、結果だけを並べて自分を責めてしまうパターンは珍しくありません(件数や割合などの統計はここでは使いません)。

まず知っておきたいのは、「症状の変動には個人差がある」ということ自体です。周囲と比較して落ち込む前に、比較の土台が違うのだと思い出せると、自己否定のループを一段ゆるめやすくなります。

ストレスとの付き合い方として言われている工夫

ストレスそのものをゼロにすることは難しくても、対処の仕方や心身の状態を整えることで、影響をやわらげられる可能性があるとされています。よく挙げられるのは、次のような工夫です。

  • 睡眠を整える:睡眠の質や量は、ストレスへの耐性に関連すると言われています。完璧を求めず、できる範囲で整えることが大切です
  • 栄養バランスを意識する:規則正しい食事は、心身の状態を保つための基礎になります
  • 無理のない範囲で体を動かす:症状に応じて、できる範囲での運動が気分の安定に関連すると言われています
  • 人とのつながりを保つ:社会的なつながりは、ストレスの影響をやわらげるクッションのような役割を果たすと言われています

これらは「絶対にやらなければならない」ものではありません。できる範囲で取り入れる選択肢として知っておいてもらえれば十分です。症状の波がある日は、4つ全部を目指さなくてよい、というのがこの記事の立場です。

ストレスの「引き金」に気づくことから

日常生活に活かすうえで、まず取り入れやすいのが「何がストレスの引き金になっているか」に気づくことです。引き金が分かれば、その状況を避ける、減らす、あるいは対処を先に考えておく、といった工夫がしやすくなります。

たとえば、「通院の前は緊張しやすい」「人混みに行くと疲れやすい」など、自分なりのパターンに気づくことが、予防的な対処の第一歩になります。リールでもお伝えしている通り、まずは今日感じた引き金を1つ書き出す、という小さな一歩で十分です。

引き金に気づいたあとの対処は、「その状況を完全に避ける」ことである必要はありません。通院前に緊張しやすいと気づいたなら、前後の予定を詰め込みすぎない、通院後は少しゆっくり過ごせる時間を確保する、といった形で、引き金そのものではなく前後の過ごし方を調整できます。避けられない引き金でも、影響を小さくする余地は残されています。

工夫は一つずつ、無理なく取り入れる

睡眠・栄養・運動・人とのつながりは、どれもすぐに完璧にこなせるものではありません。症状の状態によっては、今の自分には難しいと感じる項目もあるはずです。大切なのは、すべてを一度に整えようとしないことです。

まずは今の生活のなかで一番手をつけやすいものを一つだけ選び、しばらく続けてみる。それができてきたら、次の工夫を少しずつ足していく。ストレスへの対処は「オールオアナッシング」で考える必要はなく、少しずつ積み重ねていくものとして捉えられています。うまくいかない日があっても、それを失敗だと捉えず、また明日から少しずつ調整していけば、それで十分です。

ここで一つだけ注意したいのは、工夫を「やらなければ症状が悪化する」という脅しに変えないことです。本稿は治療効果を保証するものではありません。自己判断で治療を変えたり、中断したりする根拠にはなりません。ストレスが症状に影響していると感じる場合は、主治医に相談することをおすすめします。

こんな状態の人に向けて

  • 「なんで自分ばかり調子を崩すのか」と、周囲と比較して落ち込みやすい方
  • ストレスと症状の関係は感じているが、何から手をつければよいか分からない方
  • セルフケアを頑張ろうとして、できなかった日に自分を責めやすい方

「自分ばかり」が口癖になっている方には、まず「特性とストレスの組み合わせ」という見取り図があることだけ、覚えておいてもらえたらと思います。

何から始めるか迷っている方には、睡眠・栄養・運動・つながりの全部ではなく、今日の引き金を1つ書き出すところからで十分です。

記録や生活の見える化を試したい方には、伴走支援の補助ツールとして試験運用中の「おくすりとくらし」(はたらくコンディション)もあります。必須ではありません。今の自分に合う範囲だけで見てみてください。

まとめ

  • ストレスと症状の関係は、「ストレス-脆弱性モデル」という考え方で説明されることがある
  • 症状の出方の個人差は、本人の弱さではなく特性によるもの
  • 睡眠・栄養・運動・人とのつながりが、ストレスの影響をやわらげる工夫として知られている
  • ストレスの「引き金」に気づくことが、予防の第一歩になる
  • 工夫は一つずつでよい。うまくいかない日を失敗にしない

※ 本記事は一般的な情報提供であり、個別の医療助言・診断・治療方針の変更を示すものではありません。体調に不安があるときは、主治医など医療者にご相談ください。

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