予定を守れないのは「甘え」ではなく、体調をコントロールしきれない病気と生きる中で自然に起こること
難病・慢性疾患を抱えていると、「その日にならないと、自分の体調が分からない」という感覚に、多くの人が身に覚えがあるのではないでしょうか。だから人との約束が怖い。せっかく約束できても、当日になって「やっぱり無理」とキャンセルしてしまい、そのたびに深く自分を責めてしまう——。
結論から言うと、これはわがままでも甘えでもありません。体調を自分の意思で決めきれない中で、自然に起きていることです。この記事では、予定を守れない自分を責めてしまう気持ちを少しほどくための心理学の考え方と、次に予定を入れるときに気持ちを軽くしておくための具体的な工夫を紹介します。「約束が怖い」という気持ちに、少しでも見通しが立てば幸いです。
なぜ「約束」がこんなにも怖いのか
体が元気なときには当たり前にできていた「来週の水曜、ランチしよう」という一言。難病・慢性疾患と生きていると、この一言がとても重くなります。
理由はシンプルで、未来の自分の体調が予測できないからです。今日は動けても、明日は起き上がれないかもしれない。朝は大丈夫でも、午後には力が入らなくなるかもしれない。症状に波があるほど、「その日、その約束を守れる自分でいられるか」に確信が持てません。
だから、約束すること自体が「守れないかもしれない負債」を抱えるように感じられます。誘いに対して「行きたい、でも約束できない」という板挟みが生まれ、返事を先延ばしにしたり、そもそも誘いを避けたりするようになる。その結果、人との距離が少しずつ開いていくように感じて、さらにつらくなる——。この連鎖に、心当たりのある人は少なくないと思います。
筆者は、公的職業紹介機関で持病・障害のある方の就職支援を担当する中で、「体調が読めないから、予定も仕事も約束できないのがいちばんつらい」という声を、本当に何度も聞いてきました。これは特別なことではなく、体調に波のある多くの人が共通して抱える悩みです。
当日キャンセルのあとに来る「罪悪感」の正体
約束を守れずキャンセルしたあと、多くの人を苦しめるのが罪悪感です。「また迷惑をかけた」「私はいつもこうだ」「相手はきっと呆れている」——。頭の中で自分を責める言葉がぐるぐると回り、体調のつらさに気持ちのつらさが上乗せされていきます。
ここで知っておきたいのは、その罪悪感は「あなたが誠実で、相手を大切に思っているからこそ生まれている」ということです。どうでもいい相手なら、罪悪感は湧きません。相手との関係を大事にしたいからこそ、守れなかったことが苦しいのです。
つまり罪悪感そのものは、あなたが冷たい人間だからではなく、むしろ逆の証拠です。ただ、その気持ちが強くなりすぎて自分を責め続けてしまうと、心が消耗し、次に人と関わること自体が怖くなってしまいます。だからこそ、罪悪感を「感じてはいけないもの」として無理に打ち消すのではなく、少しずつほどいていく視点を持っておくことが大切だと、筆者は感じています。
自分にも「優しさ」を向けていい(セルフコンパッション)
自分を責める気持ちをほどくうえでヒントになるのが、心理学者クリスティン・ネフ(Kristin Neff)が提唱したセルフコンパッションという考え方です。
セルフコンパッションは、自分の失敗や苦しみに対して、親しい友人にかけるのと同じような優しさ・理解を、自分自身にも向ける態度のことを指します。この考え方は、次の3つの要素からなるとされています。
- self-kindness(自分への優しさ):うまくいかない自分を厳しく批判するのではなく、労わりの言葉をかける
- common humanity(共通の人間性):「こんなに約束を守れないのは自分だけだ」と孤立するのではなく、「体調に波のある人なら、同じように悩む人がいる」と捉える
- mindfulness(マインドフルネス):つらい気持ちを大げさにも過小にもせず、「今、私は罪悪感を感じているな」とそのまま眺める
もし親しい友人が「体調が悪くて約束をキャンセルしてしまって、自分が嫌になる」と落ち込んでいたら、あなたはなんと声をかけるでしょうか。おそらく「そんなに自分を責めないで」「体がつらいときは仕方ないよ」と労わるはずです。その言葉を、そっくりそのまま自分にも向けてあげていい、というのがセルフコンパッションの考え方です。
なお、セルフコンパッションは気持ちの持ち方に関する概念であり、症状や病気そのものへの効果を示すものではありません。
「もし無理なら、こうする」を先に決めておく(実行意図)
罪悪感をほどく視点と合わせて持っておきたいのが、予定を入れる段階でのちょっとした工夫です。ここで役立つのが、心理学者ペーター・ゴルヴィツァー(Peter Gollwitzer)が示した実行意図(if-thenプランニング)という考え方です。
実行意図とは、「いつ・どこで・どのように行動するか」をあらかじめ具体的に決めておくことで、目標の達成率が高まるとされる考え方です。難病・慢性疾患のある人が予定を入れるときにこれを応用すると、こんなふうになります。
- 「もし当日の朝、体調が悪かったら、前日夜か当日朝◯時までに連絡する」とルールを先に決めておく
- 「もし外出が難しかったら、オンラインに切り替えられるか相手に聞いておく」
- 「もし途中でしんどくなったら、無理せず先に帰ると最初に伝えておく」
ポイントは、約束する時点で「守れなかったときの動き」までセットにしておくことです。こうしておくと、「守らなければ」という重圧が少し軽くなり、当日キャンセルになったときも「決めておいた通りに動くだけ」と考えられます。相手にも最初から「体調によっては直前に変更をお願いするかもしれない」と伝えておけば、キャンセルが「裏切り」ではなく「想定内」になり、罪悪感もぐっと小さくなります。
なお、実行意図は行動を後押しする考え方であり、体調や症状そのものを左右するものではありません。特定の達成率などの数値を保証するものでもありません。
今日からできる、予定と付き合う小さな工夫
- 約束は「体調によっては変更をお願いするかも」を一言添えて入れる:先に伝えておくことで、当日の心理的ハードルが下がります
- 「もし〜なら、こうする」を予定ごとに1つ決めておく:連絡のタイミング、代替案(オンライン・日延べ)を先に用意しておく
- キャンセルの連絡文を、あらかじめ用意しておく:つらいときに文章を考えるのは負担です。定型文があると、連絡そのものが楽になります
- キャンセルできた自分を責めるより、「無理せず選べた」と捉え直す:休む判断も、自分を守る大切な行動です
- 体調の波を記録しておく:「どんな日に調子を崩しやすいか」の傾向が見えると、予定を考えるときの目安になります
予定のたびに苦しくなってしまうあなたへ
まずは「約束が怖いのは、あなたが不誠実だからではない」ことを思い出してください。体調をコントロールしきれない中で、それでも人と関わろうとしている——それ自体がすでに、とてもがんばっていることです。守れなかった日があっても、あなたの価値は少しも下がりません。
家族・友人として支えたいあなたへ
体調に波のある人にとって、いちばん心強いのは「体調が優先でいいよ、無理しないでね」という一言です。キャンセルを責めず、「また元気なときに」と言ってもらえるだけで、その人は次もあなたと会いたいと思えます。約束のかたちを、相手の体調に合わせて柔らかくしておくことが、いちばんの支えになります。
体調の波を「見える化」したいあなたへ
「どんな日に調子を崩しやすいか」を自分で把握できると、予定を入れるときの見通しが立てやすくなります。makes momo が開発している服薬・生活管理アプリ「おくすりとくらし」は、日々の体調や症状をかんたんに記録し、あとから振り返れるようにするためのツールです(診断や治療の判断を行うものではなく、あくまで記録を助けるものです)。まずは「今日の自分」を書き留めることから始めてみるのも、ひとつの方法です。
おわりに
予定を約束できないこと、当日キャンセルしてしまうこと。そのたびに自分を責めてきた人に、いちばん伝えたいのは「それは、あなたのせいではない」ということです。体調をコントロールしきれない病気と生きる中で、自然に起きていることであり、あなたが誠実だからこそ罪悪感を抱くのだと、筆者は感じています。
自分にも優しさを向けていいこと。「もし無理なら、こうする」を先に決めておくと少し楽になること。この2つを、しんどい日のお守りとして、心の片隅に置いてもらえたらうれしいです。
参考文献・出典
- Neff, K. D. (2003). "Development and validation of a scale to measure self-compassion." Self and Identity, 2, 223–250.
- Gollwitzer, P. M. (1999). "Implementation intentions: Strong effects of simple plans." American Psychologist, 54(7), 493–503.
(この記事は makes momo が運営する情報提供を目的としたものです。医療的判断は主治医にご相談ください)


