体調のことを会社に伝えたとき、その場ではちゃんと対応してもらえた。でも「次からもこうやって対応してくれるのかな」という不安が、なんとなく消えずに残っている——そんな感覚、ありませんか。
この記事で伝えたい結論は一つです。その不安の正体は、会社の対応が“その時々の対応”で終わっていて、対応そのものの積み重ね(=対応力)になっていないことにあることが多いということ。だからこそ、「会社にこう変わってほしい」を言葉にしておくこと、「もし体調が揺れたら誰に何を伝えるか」を先に決めておくこと(実行意図)、そして「会社の対応力そのものを高める選択肢がある」ことを知っておくことが、気持ちを少し軽くする手がかりになります。
なぜ「次も大丈夫?」が消えないのか(その場しのぎの構造)

会社が難病や慢性疾患のある人への対応に慣れていないと、どうしても場当たり的な対応になりがちです。悪意があるとは限りません。ただ、その時々の判断だけで終わると、本人の側には次のような感覚が残りやすいです。
- 今回は助かったが、次回も同じ対応がある保証はない
- 誰に何をどこまで話せばいいか、毎回手探りになる
- 「また同じ不安を抱え続けるのかな」という見通しのなさ
筆者は公的職業紹介機関で持病・障害のある方の就職支援を担当する立場で相談を受ける中で、こうした「その場は対応してもらえたのに、先が不安」という話を何度も聞いてきました。制度の有無だけの話ではなく、「会社側が、病気や症状の波に慣れた対応の型を持っているか」が、安心感に直結しやすい——というのが現場で感じる一般論です(件数・割合などの統計はここでは使いません)。
「会社にこう変わってほしい」を言葉にできない理由

本当は「こう変わってほしい」という思いがあっても、それを言葉にして伝える機会自体が少ない、という声もよく聞きます。整理すると、次のような理由が多い印象です。
- 何を求めていいのか、自分でもうまく整理できていない
- 「わがまま」だと思われるのが怖い
- 伝えたところで、どうせ変わらないだろうと感じてしまう
- 誰に言うべきか(上司・人事・産業保健)が分からない
ここで大事なのは、「うまく言えない=わがまま」ではない、ということです。むしろ、会社側に対応の型がない状態では、本人が言葉にしても受け止める側が困る、という構造になりやすい。だから本人だけが言い方を磨いても、不安が消えないことがあります。
言葉にするときのヒント(完璧な要求文にしなくていい)
会社に伝える文案を、最初から完成形にする必要はありません。まずは自分用のメモとして、次のような観点で書き出してみるだけでも十分です。
- 続けたいこと(例:今の業務のこの部分は続けたい)
- 負担になりやすいこと(例:急な残業、通院日の調整が難しい)
- こうしてもらえると助かること(例:体調が悪い日の連絡ルールを先に決めておく)
- 伝えたくない範囲(例:病名の詳細は同僚には共有しないでほしい)
このメモは、すぐ会社に提出する書類ではなく、自分の頭の中を外に出すためのものです。「わがままリスト」ではなく、「働き続けるための調整ポイント」として書いてみてください。
もう一歩だけ進めるなら、「誰に・いつ・どの範囲で伝えるか」も一緒に書いておくと安心しやすいです。全部を一度に伝える必要はありません。まずは信頼できる一人(上司・人事・産業保健など)に、短い箇条書きで渡す、という進め方でも構いません。伝わったあとに「次回からのルールを一緒に決めたい」と言えると、その場しのぎで終わりにくくなります。
「もし体調が揺れたら」を先に決めておく(実行意図)

言葉にするヒントと合わせて持っておきたいのが、心理学でいう実行意図(if-thenプランニング)です。心理学者ペーター・ゴルヴィツァー(Peter Gollwitzer)は、「いつ・どこで・どのように行動するか」をあらかじめ具体的に決めておくことで、目標に向けた行動が取りやすくなると示しています(出典:Gollwitzer, P. M. (1999). "Implementation intentions: Strong effects of simple plans." American Psychologist, 54(7), 493–503.)。
予定のキャンセルや服薬タイミングの話ではなく、職場での連絡・相談の型に当てはめると、たとえば次のようになります。
- 「もし体調が揺れたら、→ 上司(または人事)に、いつ・どの手段で連絡するか」を先に決めておく
- 「もし負担が増えたら、→ どこまでの調整をお願いするか」を自分用メモに書いておく
- 「もし病名の詳細を聞かれたら、→ どこまで話す/話さないか」の線引きを決めておく
ポイントは、不安が強いときにゼロから考えるのではなく、揺れたときの動きを先にセットしておくことです。これだけで「次も大丈夫かな」という見通しのなさが、少しだけ具体的な手順に変わります。数値で効果を保証するものではなく、行動を後押しする考え方として知っておいてもらえれば十分です。
会社の「対応力」そのものを高める、という選択肢

本人が言葉にするだけでなく、会社側の対応力そのものを高めていく取り組みもあります。外部の専門家が本人と会社のあいだに入り、伴走するような形です。
makes momoの「からだとこころのはたらく伴走支援」は、看護師・公認心理師が、難病・慢性疾患・こころの不調がある従業員への会社の対応力を高めるサポートをしています。主なイメージは次の通りです。
- 本人の意向と職場の受け入れ体制をすり合わせる伴走
- 主治医の意見や職場調整の実務を、医療・心理の知識を踏まえて整理する支援
- 「その場しのぎ」で終わらない、対応の型づくりを会社側と一緒に考えること
ここで正直にお伝えします。このサービスは始まったばかりで、導入実績や成功事例と呼べるものはまだありません。ですから本稿では「効果があった」「必ず安心できる」といった成果の断定はしません。あくまで「こういう伴走支援を会社に頼める、という選択肢がある」ことを知っておく、という位置づけです。
また、このサービスは患者さんご本人が直接契約するものではなく、雇用されている企業を通じて利用する形が中心です。無理にすぐ会社に提案する必要はありません。まずは「そういう考え方・選択肢もある」ということだけ、頭の片隅に置いてもらえたら十分です。
こんな状態の人に向けて
- 一度は対応してもらえたが、「次も同じか」が気になって眠れないことがある方
- 「会社にこう変わってほしい」が胸の中にあるのに、言葉にできていない方
- 転職までは考えていないが、今の会社の対応の仕方に不安がある方
「次も大丈夫?」が消えない方には、まず自分用メモで「続けたいこと/負担/助かること/伝えたくない範囲」を書き出すところから始めてみてください。
会社に少しでも伝えたい方には、「完璧な要求」ではなく「働き続けるための調整ポイント」として、短い箇条書きからで十分です。
専門家の伴走という選択肢を知りたい方には、「からだとこころのはたらく伴走支援」の案内を覗いてみてください(導入の判断は会社側です)。
まとめ
- 「次も対応してくれるのかな」という不安は、その場しのぎの対応が続く構造と結びつきやすい
- 「会社にこう変わってほしい」を言葉にできないのは、わがままではなく機会と受け皿の問題でもある
- まずは自分用メモで、続けたいこと・負担・助かること・伝えたくない範囲を整理してよい
- 「もし体調が揺れたら、誰に何を伝えるか」を先に決めておく(実行意図)と、動きやすくなることがある
- 会社の対応力そのものを高める伴走支援という選択肢もある(サービスは始まったばかりで実績はこれから。本人が直接契約する窓口ではない)



