指定難病と診断された直後、多くの人が「治療」と同じくらい大きな不安を抱くのが「仕事を続けられるかどうか」です。この悩みには専門の相談窓口があり、症状や治療のペースに合わせて働き方を一緒に考えてもらえます。窓口の名前は「難病患者就職サポーター」。ハローワーク等に配置されている専門の相談員で、難病・指定難病を抱える人の就労支援に特化しています。

なぜ「就労の悩み」は後回しにされやすいのか
指定難病の診断を受けた直後は、治療方針の決定や検査のスケジュール調整など、目の前のことで頭がいっぱいになります。仕事のことは「治療が落ち着いたら考えよう」と後回しにされがちです。
しかし実際には、治療と並行して職場との調整が必要になる場面は多くあります。通院日の確保、症状が悪化したときの対応、上司や同僚への伝え方——悩みは治療の進行と同時に発生します。
一般社団法人CRA(2025年)の調査では、指定難病64疾患による年間の過剰経済コストは9.9兆円にのぼると報告されています。この数字は、難病と就労の両立がいかに社会全体の課題であるかを示しています。
難病患者就職サポーターとは何をする人か

難病患者就職サポーターは、難病・指定難病を抱える人がハローワークを通じて就職活動や職場定着の相談をする際に対応する専門の相談員です。一般的な就職相談員と異なり、治療と仕事の両立という難病特有の事情に詳しいのが特徴です。
相談では、次のようなことを一緒に整理していきます。
① 今の職場への伝え方
症状や通院の必要性をどこまで、どう伝えるか。伝えるタイミングや伝える相手(上司・人事・同僚)によって適切な伝え方は変わります。
② 通院と仕事のスケジュール調整
定期的な通院が必要な場合、休暇制度や勤務時間の調整について職場とどう話し合うか。
③ 体調に応じた働き方の選択肢

症状が変化したときに、働き方そのものを見直す必要が出てくることもあります。在宅勤務、時短勤務、転職などの選択肢を、焦らず検討します。
これらはどれも「正解が一つに決まっている」ものではありません。症状の重さ、治療の段階、職場の状況、本人の希望によって、最適な答えは一人ひとり異なります。
相談に行く前に準備しておきたいこと
相談をより有効に使うために、事前に整理しておくと話がスムーズになる項目があります。
- 現在の症状の状態と、今後想定される変化(主治医に確認できる範囲で)
- 通院の頻度・タイミング
- 今の職場の制度(休暇・時短勤務・在宅勤務の可否)
- 今、一番困っていること・知りたいこと
すべてを完璧に準備する必要はありません。「何から話せばいいか分からない」という状態でも、相談員と一緒に整理していくことができます。
ひとりで決めなくていい

治療と仕事の両立を考えるとき、最もつらいのは「誰にも相談できないこと」だという声を、現場で数多く聞いてきました。家族や同僚に心配をかけたくない、職場に迷惑をかけたくないという気持ちから、一人で抱え込んでしまう人は少なくありません。
就労の悩みは個人の意志や努力だけで解決できるものではなく、制度や職場の理解、専門家のサポートを組み合わせて初めて前に進めることが多くあります。難病患者就職サポーターは、まさにそのための窓口です。
まとめ
- 指定難病と診断された後の就労の悩みには、難病患者就職サポーターという専門の相談窓口がある
- 相談では「職場への伝え方」「通院との両立」「働き方の選択肢」を、本人の状況に合わせて一緒に整理する
- 一人で抱え込まず、まずは話してみることから始められる
著者について
安原奈那(やすはら なな)/makes momo
看護師・公認心理師。岡山県を拠点に、難病・慢性疾患を抱えながら働く方へのEAP(従業員支援プログラム)サービスを提供。約15年の臨床経験と、約8年の難病患者就職サポーターとしての相談員経験をもとに、医療と就労の橋渡しを専門とする。
参考文献
- 一般社団法人CRA(2025年). 指定難病64疾患の年間過剰経済コスト推計
本コラムの情報は学術文献・実務経験に基づいていますが、個別の状況については専門機関へご相談ください。

