「立ち直る力は、特別に強い人だけのもの」。そう思って、体調に波がある自分を「弱い」と責めてしまうことはありませんか。
先に結論をお伝えします。困難の中でもうまく適応していく力は「レジリエンス」と呼ばれます。心理学者のMasten氏の論文(2001年)では、これは特別な才能というより、身近な人との関係や「自分ならできる」という感覚など、ふだんから働いている力の組み合わせによるものだとされています。そして、その力に気づくための小さな一歩として、「今日うまくいったことを1つ振り返る」という方法があります。
この記事では、研究で確認できる範囲だけを、順にお伝えします。「こうすれば立ち直れる」という方法を示すものではなく、「自分は弱い」と感じたときの見方のひとつとして読んでいただければと思います。
レジリエンスとは、「つらさがないこと」ではなく「困難の中での適応」を指す
レジリエンスは、心理学で使われる言葉です。深刻な困難や逆境に直面しながらも、良好な適応を示す現象のまとまりを指す概念として紹介されています。
日本語では「立ち直る力」「回復力」などと言われますが、「つらさを感じない」「いつも元気でいる」という意味ではありません。困難に直面した中で、うまく適応していくあり方を指す言葉です。
ですから、体調の波があって落ち込む日があること自体は、レジリエンスがないことの証拠にはなりません。
「自分は弱い」と感じる日があるのは、自然なこと
体調に波があると、予定をこなせなかったり、人に頼らざるを得なかったりします。周りの人と比べて、自分だけができていないように感じることもあるかもしれません。
そんな日に「自分は弱いのかな」と感じるのは、自然なことだと思います。大切なのは、うまくいかない日があることと、「弱い」ことは同じではない、という点です。うまくいかない日があるからといって、それが弱さの証拠とは限りません。
立ち直る力は「特別な才能」ではない、とされる
動画やリールでお示しした出典の「Masten, 2001」は、Masten氏が2001年に学術誌『American Psychologist』に発表した論文です。題名は「Ordinary magic: Resilience processes in development」。直訳すると「ふつうの魔法:発達におけるレジリエンスの過程」といった意味合いです。
この論文では、困難の中でも良好に適応する現象は、特別な才能というより、人にふだんから備わっている「適応のしくみ」の働きによるものだとされています。「ふつうの魔法」という題名が、この見方をよく表しています。
ただし、これは研究における考え方の紹介です。すべての人にあてはまると言い切るものではありませんし、「とされる」と書いているのはそのためです。
「ふだんの力」とは、身近な人との関係と「自分ならできる」という感覚など

では、「ふだんの力」とは何でしょうか。論文では、たとえば次のようなものが挙げられています。
- 身近な人との関係
- 「自分ならできる」という感覚(自己効力感)
ひとつの大きな力があるのではなく、日常の中にある小さな力が組み合わさって働いている、という考え方です。数値や効果の大きさを示すものではありません。
今日うまくいったことを「1つだけ」振り返る
「ふだんの力」は、意識しないと見えにくいものです。そこで、今日うまくいったことを1つだけ振り返ってみます。たとえば、次のようなごく小さなことで構いません。
- 体調に不安を感じて、早めに相談した
- 無理をしないように、予定を減らした
- つらい日でも、薬や通院の用事を済ませた
- 今日は誰かと少し話せた
こうした小さな選択も、ふだんの力の一部かもしれません。大きなことを探そうとすると、「今日は何もできなかった」と感じて終わってしまいがちです。探す対象をあえて小さくしておくのが、この振り返りのコツです。
やり方は3ステップ
- 夜、寝る前や、ひと息つく時間に、今日のことをざっと思い返す
- うまくいったこと、できたこと、やめておいて良かったことを、1つだけ選ぶ
- メモに一行で書くか、頭の中で「これは自分のやり方だな」と言葉にしてみる
うまく思い出せない日は、無理に探さなくて大丈夫です。「今日は休んだ」ということも、選択のひとつです。
よくある疑問:レジリエンスは「性格」や「気合」の問題ですか?
こうした疑問を持たれる方もいらっしゃると思います。この記事で参照した論文の見方は、「特別な才能」だけで説明するのではなく、ふだんの適応のしくみの働きとして捉える、というものです。その意味で、「もともとの性格」や「気合の強さ」だけで決まるもの、とは位置づけられていません。
とはいえ、ここでも「とされる」という留保をつけておきます。研究の考え方を紹介しているのであって、ご自身の状況にどうあてはまるかは、人によって異なります。
周りの人との関係も「ふだんの力」のひとつ
「ふだんの力」の例として、身近な人との関係を挙げました。ここで誤解のないようにお伝えしたいのは、「誰かに頼れない自分はだめだ」という話ではない、ということです。
病気や体調のことを話せる相手が、いまは思い当たらない方もいらっしゃると思います。それは、あなたの努力が足りないからではありません。話せそうな人を、ひとり思い浮かべてみる。そのくらいの小さな一歩から始めて構いません。
職場の方へ:従業員の「体調の波」を、弱さと決めつけない
最後に、企業の人事や経営層の方に向けて、ひとつだけ書き添えます。
体調に波のある従業員の方が、「自分は弱いのかもしれない」と感じていることは、少なくないかもしれません。その方の「うまくいった日」や「早めに相談できたこと」に目を向けて声をかけることは、本人が自分のふだんの力に気づく手がかりになる可能性があります。もちろん、これは研究の結論そのものではなく、筆者の整理案です。個別の対応は、本人の意向と状況をよく伺ったうえで考えることが大切です。
ご注意いただきたいこと
- この記事は、医療・治療についての助言ではありません。レジリエンスという考え方の紹介です
- つらさが続くときや、日常生活に支障が出ているときは、かかりつけの医療機関や、お住まいの地域の相談窓口にご相談ください
- ご自身の状況にあてはまるかどうかは、人によって異なります
まとめ
- レジリエンスは、困難の中でうまく適応していく現象を指す言葉です
- 研究では、特別な才能というより、身近な人との関係や「自分ならできる」という感覚など、ふだんの力の組み合わせによるものだとされています
- 「自分は弱い」と感じる日があっても、それが弱さの証拠とは限りません
- 今日うまくいったことを1つだけ振り返ってみるのは、ふだんの力に気づくための、ささやかな一歩です
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出典:Masten, A. S. (2001). Ordinary magic: Resilience processes in development. American Psychologist, 56(3), 227-238.



